胃がん患者における胃切除の術前および術後早期からのビタミンB12 欠乏High prevalence of vitamin B-12 deficiency before and early after gastrectomy in patients with gastric cancer.
論文サマリー
ビタミンB12 の吸収には胃の分泌物が必須であることから、胃切除後にはビタミンB12 の吸収障害が起こるが、肝臓に多量の貯蔵があるため、胃切除の術後約5年後にビタミンB12 欠乏が生じるというのが従来の定説である。しかし、胃がんの大部分は長期間の萎縮性胃炎を伴っており、胃切除の術後早期あるいは胃がんに進展する前からビタミンB12 の吸収障害が起こっている可能性がある。そこで、胃がんによる胃切除の前後におけるビタミンB12栄養状態について検討した。
胃がんによる胃切除の術前患者16 名、術後患者49 名を解析対象者として、通常の診療で測定される項目に加えて、血清ビタミン12、葉酸、フェリチン濃度、血漿ホモシステイン(Hcy)濃度を測定した。また、質問票による食事調査を実施した。
術前患者16 名において、ビタミンB12 の重度欠乏(150 pmol/mL 未満)は3 名、欠乏(150 pmol/mL 以上258 pmol/mL 未満)は7 名であり、術前から半数以上の患者でビタミンB12 欠乏が起こっていた。胃切除後患者49 名では、ビタミンB12 の重度欠乏は11 名、欠乏は27 名であった。また、胃切除後患者49 名中21 名は術後3 年以内であり、そのうち重度欠乏は19.0%、欠乏は52.4%であり、胃切除後早期からビタミンB12 欠乏が生じていた。さらに、胃切除後患者において、血清ヘモグロビン濃度によって貧血に該当した21名の血清ビタミンB12 濃度の平均値は欠乏に該当したが、平均赤血球容積(MCV)の平均値は基準範囲内であり、21名中9 名が鉄欠乏とビタミンB12欠乏/ 重度欠乏を合併していた。
本研究において、胃がんによる胃切除の術前および術後早期からビタミンB12 欠乏が起こることを明らかにした。また、胃切除後患者の貧血について、鉄欠乏性貧血とビタミンB12 欠乏による貧血の合併が起こりやすく、前者は小球性貧血、後者は大球性貧血であるため、MCV 値は基準範囲内となり、この場合はMCV からビタミンB12 欠乏を推測することはできず、見逃す可能性が示唆された。ビタミンB12 欠乏による貧血、神経障害、高Hcy血症による血管障害などの疾患リスクの増加を考慮すると、胃がんによる胃切除の前後には血清ビタミンB12 濃度の測定が重要であると考えられた。
グラフィックサマリー