日本ビタミン学会

CRISPR/Cas9システムにより作製したCYP24A1遺伝子欠損ラットを用いた25-ヒドロキシビタミンD3の代謝経路の解明Elucidation of metabolic pathways of 25-hydroxyvitamin D3 mediated by CYP24A1 and CYP3A using Cyp24a1 knockout rats generated by CRISPR/Cas9 system

著者名(英文):Yasuda K, Nishikawa M, Okamoto K, Horibe K, Mano H, Yamaguchi M, Nakagawa K, Tsugawa N, Okano T, Kawagoe F, Kittaka A, Ikushiro S, Sakaki T.
掲載雑誌名J. Biol. Chem., 296: 100668 (2021), doi: 10.1016/j.jbc.2021.100668.

論文サマリー

ビタミンD3は、25-ヒドロキシビタミンD3(25D3)を経て、1α,25-ジヒドロキシビタミン(1,25D3)へと代謝された後、種々の生理作用を発揮する。CYP24A1は25D3、1,25D3を連続的に代謝する酵素であり、近年、疾患との関連も報告されている。各種疾患と血中ビタミンD代謝物量との関連を調べる上で、血中25D3や1,25D3量に加えて、多数存在するCYP24A1由来代謝物を定量的に解析することは意義が大きいと考えられる。
本論文では、生体内におけるCYP24A1依存性および非依存性のビタミンD代謝を明らかにすることを目的とし、CRISPR/Cas9システムによりCYP24A1遺伝子欠損(KO)ラットを作出した。このラットは、野生型ラットに比べて血中25D3濃度は2倍程度であったが、予想外に血中1,25D3濃度は正常値を示し、血中カルシウム濃度や表現型において、野生型と顕著な違いはみられなかった。野生型およびCYP24A1 KOラットに、25D3を単回投与し、経時的に各代謝物の血中濃度を定量したところ、野生型ラットのみで検出された5種の代謝物のうち、主要代謝物の一つである26,23-ラクトン-25D3についてCYP24A1に加えて、他の酵素の関与が示唆された。CYP24A1 KOラットから調製した肝組織画分や各種CYP発現系を用いた詳細な解析結果から、23,25,26-トリヒドロキシビタミンD3から26,23-ラクトン-25D3への変換にCYP3Aが必須の役割を果たすことが示唆された(図1)。近年、CYP3A4遺伝子変異が原因のくる病が発見され、今回の結果と併せて、CYP24A1およびCYP3A依存性代謝物の定量がビタミンDと疾患とを考える上で重要であると考えられる。
上述したとおり、CYP24A1 KOラットは正常な表現型を示したが、25D3を110 μg/kg-体重/日で長期投与したところ、著しい体重減少および異所性石灰化が認められた(図2)。CYP24A1 KOラットは、CYP24A1機能障害に起因する腎疾患を研究するための重要なモデルとなり得る。野生型ラットでは、同量・期間の25D3投与で副作用はみられておらず、一般的にはビタミンD3や25D3を摂取することが重要である。一方で、24,25-ヒドロキシビタミンD3の定量など、CYP24A1機能不全を事前に診断することが重要であると考えられる。

グラフィックサマリー

図1 ラットにおける25D3代謝経路

図2 CYP24A1 KOラットに対する25D3の長期投与の影響 (左:体重変化、右:CT画像)
右図の点線丸および矢印は、血管の石灰化した部分を表す。

解説者コメント

今回、目的遺伝子欠損動物として、マウスではなくラットを作出して研究を行いました。ラットはマウスと比べて10倍程度大きく、採取できる血液量が多いという点で、微量しか存在しないビタミンD代謝物解析において、特にメリットがあります。我々は、他にも数種のビタミンD関連遺伝子改変ラットを作出しており、これらと併せて、今後さらにビタミンDの代謝と生理作用を解明していく予定です。

 

解説者:安田 佳織(富山県立大学工学部医薬品工学科)

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