日本ビタミン学会

胃がん患者における胃切除の術前および術後早期からのビタミンB12 欠乏High prevalence of vitamin B-12 deficiency before and early after gastrectomy in patients with gastric cancer.

著者名(英文):Misora Ao , Masaaki Awane , Yoshito Asao , Sadahiko Kita , Takashi Miyawaki , Kiyoshi Tanaka
掲載雑誌名:Asia Pac J Clin Nutr 32, 275-281 (2023)  doi: 10.6133/apjcn.202306_32(2).0010. PMID: 37382325.

論文サマリー

ビタミンB12 の吸収には胃の分泌物が必須であることから、胃切除後にはビタミンB12 の吸収障害が起こるが、肝臓に多量の貯蔵があるため、胃切除の術後約5年後にビタミンB12 欠乏が生じるというのが従来の定説である。しかし、胃がんの大部分は長期間の萎縮性胃炎を伴っており、胃切除の術後早期あるいは胃がんに進展する前からビタミンB12 の吸収障害が起こっている可能性がある。そこで、胃がんによる胃切除の前後におけるビタミンB12栄養状態について検討した。

胃がんによる胃切除の術前患者16 名、術後患者49 名を解析対象者として、通常の診療で測定される項目に加えて、血清ビタミン12、葉酸、フェリチン濃度、血漿ホモシステイン(Hcy)濃度を測定した。また、質問票による食事調査を実施した。

術前患者16 名において、ビタミンB12 の重度欠乏(150 pmol/mL 未満)は3 名、欠乏(150 pmol/mL 以上258 pmol/mL 未満)は7 名であり、術前から半数以上の患者でビタミンB12 欠乏が起こっていた。胃切除後患者49 名では、ビタミンB12 の重度欠乏は11 名、欠乏は27 名であった。また、胃切除後患者49 名中21 名は術後3 年以内であり、そのうち重度欠乏は19.0%、欠乏は52.4%であり、胃切除後早期からビタミンB12 欠乏が生じていた。さらに、胃切除後患者において、血清ヘモグロビン濃度によって貧血に該当した21名の血清ビタミンB12 濃度の平均値は欠乏に該当したが、平均赤血球容積(MCV)の平均値は基準範囲内であり、21名中9 名が鉄欠乏とビタミンB12欠乏/ 重度欠乏を合併していた。

本研究において、胃がんによる胃切除の術前および術後早期からビタミンB12 欠乏が起こることを明らかにした。また、胃切除後患者の貧血について、鉄欠乏性貧血とビタミンB12 欠乏による貧血の合併が起こりやすく、前者は小球性貧血、後者は大球性貧血であるため、MCV 値は基準範囲内となり、この場合はMCV からビタミンB12 欠乏を推測することはできず、見逃す可能性が示唆された。ビタミンB12 欠乏による貧血、神経障害、高Hcy血症による血管障害などの疾患リスクの増加を考慮すると、胃がんによる胃切除の前後には血清ビタミンB12 濃度の測定が重要であると考えられた。

 

グラフィックサマリー

 

 

 

解説者コメント

日本人を対象に、胃がんによる胃切除の術前におけるビタミンB12栄養状態検討した研究は少なく、ビタミンB12欠乏による健康障害を考慮すると臨床的意義があると考えています。本研究の結果の要因として、胃がんの前段階である萎縮性胃炎による長期間のビタミンB12 吸収障害が考えられ、現在この点について研究を行っています。

 

解説者:青 未空(大阪樟蔭女子大学 健康栄養学部 健康栄養学科)

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